「かけがえのない」についてのお話

- 「かけがえのない」についてのお話 (1) -

光・風・雨・山・緑など、美しい、身近で普遍的な自然の広がる風景を綴った詩。
その情景を描くようにして紡がれた、なだらかで風通しのよい、歌とピアノの旋律。
そしてその世界観と呼応する、自然ゆたかな田舎の、古い木造の学校、という特別な場所で演奏された音色。
その場で自然に聴こえている、鳥の鳴く声、樹々が風に揺れる音、窓や床のきしみなどの、環境音との響き合い。

……すべてがその時一体となって見事に調和した、それはまさに「かけがえのない」作品となりました。

詩の世界を 演奏する楽器の音色と声色で表したい。

録音の様子

演奏とともに心地よく聴こえる様々な音に、広く素直に、耳と心を傾け、自然に収録したこの作品。まるでその場に居たかのような、あるいは、見たことのある風景に導かれるような、不思議な記憶が、きっと、呼び覚まされることと思います。

そして、室内に居ながらにしてフィールドレコーディングをするような広い音場……しかしあくまでもこれは実験音楽ではなく、ただ素直に、心地よい場所で音楽を奏でられる幸せを感じながら演奏し、音が自然にただよい聴こえている、という現象に真摯に向き合った作品である、ということが大きな特徴だと思います。

だからこそ、素朴なぬくもりに満ちた、やさしく親しみやすい作品を完成させることが出来た、と思っています。

私は、詩の世界を、演奏する楽器の音色と声色で表したい、と思って演奏しています。自分のできる演奏や声の質で表せることとは、きっと、好きなことについて、となるのだと思いますが、私の場合は、山や田畑など、自然の中での心地よい記憶を表したい、と思い、今作の楽曲が出来ていきました。

自然ゆたかな田舎の学校で録音したい

そうして、ごく自然に、「自然のそばで録音したい」と思うようになりました。また、どの楽曲にも通じて「懐かしさ」がありました。記憶の中で響いているような、いつまでも変わらないかのような情景の音楽だからだと思います。

そのような音楽が鳴っていた場所とは、学校だ、と思い出しました。学校でみんなで、音楽の授業、朝の会や音楽コンクールで、合唱・合奏をしたり……。

学校で響いていた、懐かしい音楽。

必ずしもいい思い出ばかりではないかもしれないけれど、学校という特別な場所での響きはきっと、かけがえのないものだったな、と思いました。

ゆえに、今回の作品は「自然ゆたかな田舎の学校で録音したい」という思いに至りました。そこから、色々な場所を探し、やっと出会えたのが、京都府南山城村にある、旧田山小学校でした。

旧田山小学校
旧田山小学校